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[特許法]実施例補充型の国内優先権主張出願は落とし穴あり。人工乳首事件

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photo by m kasahara

国内優先権主張に関する事例

人工乳首事件が職場で話題になりました。

(不思議な名称ですが、文字通り人工乳首の特許に関する裁判の話です)

 

権利範囲を拡張しようとするような優先権主張は難しいという文脈だったのですが、ウル覚えでしたので、この事件の内容や判決について調べてみました。

実務で優先権主張出願をする際には重要な事件ですからね。

 

なお私の持っている知的財産法判例教室6版ではこの事件は扱っていませんでした。

したがって情報収集にはネットを使いました。

 

概要がわかるサイト


外国出願のSK特許 優先権主張のリスクを考える上で知っておくべき判決(人工乳首事件)

SK特許事務所の伊藤先生の解説がわかりやすかったので、勉強したい方はそちらを見ルのが良いと思います。

以下は私なりにまとめた結果です。

 

人工乳首事件

私の理解

後の出願で実施例を補充することによって、後の出願のクレームが先の出願における明細書等の開示範囲を超えた場合、そのクレームに対して優先権の効果が及ばない。

たとえ後の出願のクレームの構成要件のすべてが先の出願の明細書に開示されていたとしても、上記判断に影響しない。

 

言い換えると、

後の出願で実施例を補充して広いクレームをサポートしようとしても、クレームの範囲に先の出願でサポートできない部分が含まれていると、そもそもそのクレームに対して優先権が主張できなくなってしまう。

 

判決文

「後の出願の明細書の発明の詳細な説明に,先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより、後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には、その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである」

 

 しかしながら,後の出願の明細書及び図面に新たな実施例を加えることにより,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨とする技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることとなる場合には,その超えた部分について優先権主張の効果が認められないところ,本件において,図11実施例を後の出願である本件出願の明細書に加えることにより,後の出願である本願発明1の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになり,その超えた部分については優先権主張の効果が認められないことは,上記のとおりであって,本願発明1が先の出願の【図1】等の実施例で十分実証されていたか否かは,この判断を左右するものではない

(出典)平成14(行ケ)539 特許権 行政訴訟 平成15年10月08日 東京高等裁判所

 

関連する審査基準

特許庁ではパリ条約による優先権主張出願と国内優先権主張出願では同様の考え方が採用されています。

5. 国内優先権の主張の審査上の取扱い
国内優先権の主張の審査上の取扱いは、パリ条約による優先権主張の審査上の取扱いと同様とする。

ということでパリ条約による優先権主張の取り扱いを見てみます。

 

優先権の主張の効果の判断は、原則として請求項ごとに行う。

 

(2) 日本出願の請求項に係る発明に、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲を超える部分が含まれることとなる場合(日本出願に発明の実施の形態が追加される場合等)


第一国出願の出願書類の全体には記載されていなかった事項(新たな実施の形態等)を日本出願の出願書類の全体に記載したり、記載されていた事項を削除(発明特定事項の一部の削除等)する等の結果、日本出願の請求項に係る発明に、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲を超える部分が含まれることとなる場合は、その部分については、優先権の主張の効果は認められない。
(参考:東京高判平15.10.8、平成14年(行ケ)539号審決取消請求事件「人工乳首」)

 

ということで、人工乳首事件の考え方が審査にも採用されていることがわかります。

感想

要するに、後の出願による記載内容でクレームの範囲を広げようとする虫の良いことはできないと考えるべきなんでしょうね。

実質的に権利範囲を拡張しそうなくらい異なる実施例であれば、別出願を考えた方が良さそうです。

 

終わりに

本当はいろいろ書きたいことがあったのですが、自分の中で消化できないので文章にできませんでした。この判決は妥当なきもするし、いまいち腑に落ちない気もするし、なんだか難しいです。

 

知的財産法判例教室

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