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STAP細胞の国際出願は各国でこうして拒絶査定される

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 STAP細胞の特許出願に続報あり

本日の朝のニュースで、小保方さんらのSTAP細胞の特許出願に関して、各国へ特許取得手続きが継続されたと報じられていましたね。

STAP細胞作製法の特許、出願取り下げず 理研「存在が完全に否定されたわけではない」 - 産経ニュース

STAP特許の取得手続きを継続 理研、複数の国で:朝日新聞デジタル

STAP特許、手続き継続…「存在否定されず」 : 科学 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

STAP特許:理研、手続き進める…「存在否定できぬ」 - 毎日新聞

 

ただしこの措置について毎日新聞は懐疑的です。

以下のように論評されています。

STAP細胞が再現できたという報告もまだなく、今後、各国で審査に進んでも「信ぴょう性がない」と判断され、特許は認められない可能性が高い。

実際、私もこの出願が特許査定とされる見込みはないと思っています。

勉強がてら、関連情報をまとめてみました。

 

特許を取得するためには実施可能要件を満たす必要あり

毎日新聞の記事にある「信ぴょう性」を担保することを、特許の世界では「実施可能要件」と呼ばれています。

明細書といわれる出願書類には、発明な詳細な内容を記載する必要があります。その際、その書類を読んで発明を実施することが可能な程度に詳細に記載しなくてはなりません。これを実施可能要件とよびます。

 

各国の特許法では以下のように規定されています。

 

日本
(第36条第4項第1号)
…発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであること。

 

欧州
(第83条)
欧州特許出願は,当該技術分野の専門家が実施することができる程度に明確かつ十分に,発明を開示しなければならない。

 

米国
(第112条第1段落)
明細書は,その発明の属する技術分野又はその発明と極めて近い関係にある技術分野において知識を有する者がその発明を製造し,使用することができるような完全,明瞭,簡潔かつ正確な用語によって,発明並びにその発明を製造,使用する手法及び方法の説明を含まなければならず,また,発明者が考える発明実施のベストモードを記載していなければならない。

 

STAP細胞の特許出願はすでに国際的に公開されています。

公開公報はWO2013/163296です。

 

しかしながら各国の専門家がだれもSTAP製造に成功していません。このことから、各国の特許庁もこの出願を特許査定とすることは難しいでしょう。

つまり出願は拒絶査定されることになります。

反論可能か?

「実施可能要件」違反で、特許庁から特許を拒絶するとの通知(拒絶理由通知)が来た場合、特許出願人(理研)はどうすべきでしょうか?

 

理研は、明細書(出願書類)に記載された方法で、STAP細胞が製造可能であることをデータ等で示して反論する必要があるます。

おそらく実際に各国で特許の審査が開始されるまでにまだ1年程度はあるでしょう。それまでにSTAP細胞の実在を証明する必要がありそうです。

ただ、仮にSTAP細胞を今後再現出来たとしても、その方法が特許の出願書類(明細書)に記載されていなければ、やはり出願は拒絶されてしまいます。

 

特許出願の内容が国際公開されたのは、2013年の10月です。1年たっても誰も成功していないことから見ると、出願書類(明細書)に、STAP細胞の製造方法(発明の内容)が、実施可能な程度に記載されていると主張することはやはりむずかしいと思います。

 

国際出願とは

STAPの特許出願は、国際出願です。

そもそも国際出願がなんぞやというと、1つの出願で世界中の国(特許協力条約PCTに加盟している国)に出願したとみなされるものをいいます。

PCT - 国際特許制度

 

ただ国ごとに特許法や特許の審査基準が異なるため、発明に特許権を与えるか否かは、各国ごとの判断によります。

特許の取得にはそれなりのお金が必要です(現地の特許庁や特許事務所に払う)。なので特許の審査を受ける国は絞るのが一般的です。

そこで国際出願の出願人は一定期間内に、実際に特許の取得をしたい国を選択することになります。STAP細胞の国際出願は、この期限が今月の24日だったので理研がどう判断するかが注目されていたわけです。

 

理研は現状、

STAP細胞が実用化された場合に利益を生む主要国で、手続きを進める

と判断したことになります(出典:読売新聞)。

 

追記

栗原先生の記事によると、類似事例では捏造された発明が、登録されてしまったことがあるそうです。知りませんでした…。

余談ではありますが、この記事を書く際の調べ物で知りましたが、一昔前のES細胞ねつ造事件(Wikipedia)の当事者であった韓国の黄禹錫(ファン・ウソク)氏のまさに問題となった研究に基づく特許出願が米国特許庁でつい最近に登録されてしまったという事件があったようです(New York Timesの記事)。よりによってこのタイミングでという感じです。

 STAP細胞の特許はどうなってしまうのか? | 栗原潔のIT弁理士日記

 

STAP細胞も国によっては登録される可能性があるんでしょうか。

 

国際特許出願マニュアル<第2版>

国際特許出願マニュアル<第2版>

 

 

出願人のための特許協力条約(PCT)

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