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IBMのプロジェクト開発にはきっとラブコメが足りなかった。なれるSE!12巻販売記念。

システム開発をめぐる法廷闘争

最近、システム開発を巡ったIBMと野村の法廷闘争を生々しく描いた現代ビジネスの記事が話題になっていましたね。

野村証券IBMに委託したシステム開発プロジェクトが頓挫したことから、野村が約33億円の損害賠償を求めた裁判です。


「お前が悪い!」「ウソをつくな!」名門企業どうしがシステム開発を巡って法廷闘争 野村證券vs.日本IBM 感情ムキ出し「33億円」の大ゲンカ | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]

 

裁判では、プロジェクトが破綻した原因を互いに求め、非難しあっています。たとえば野村が提出した資料は以下の様な感じだったそうです。

たとえば、野村が証拠として出した野村社員のメモには、前述のA氏について、〈Aさんはコンサルとしてはよいかもしれないが、SE(※システムエンジニ ア)としてはダメ。PM(※プロジェクトマネージャー)失格。現場が見えていないし、コントロールできていない〉。別のIBM社員についても、〈Cさんは まったく機能していない。即リーダー交代してもダメージないくらい〉と酷評する内容が書かれている。

 

野村證券のコメントが妥当かどうか部外者の私にはわからないわけですが、巨大なシステム開発だと、プロジェクトのマネジメントがかなり難しいようです。

知財業界でも以前、特許庁システム開発で似たような話がありました。

News & Trend - 2012年の特許庁システム開発中止、開発費全額返納のなぜ:ITpro

 

当時の開発現場もあまり雰囲気よくなかったんじゃないでしょうか。プロジェクトが難渋している状態を「デスマーチ」なんて恐ろしい言葉で呼ぶ業界ですし。

なれる!SE

ただ、私がこのニュースを読んですぐに思ったのは、不謹慎ながらあるライトノベルのタイトルでした。

それは、「なれる!SE」です。

なれる!SE 2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)

なれる!SE 2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)

 

 このライトノベルは、新卒で中小企業のシステムエンジニアになってしまった主人公が、美少女上司の厳しい指導のもと成長していくのが主題となっています。

 

この本の面白さの一つは、SE経験者の夏海先生が描く業界の雰囲気が良くも悪くも生生しいことです。amazonのレビューを見る限り業界関係者も納得のできのよう。

 

実は自分はこの本を読んで「IT・ICT業界」に興味を持ち、
文系の新卒で業界に入った人間です。
改めて思うのは悪い意味でも、そして良い意味でもこの本は
"現実"を描いていました。

無茶ぶり、デスマ、エンジニアの絶叫とひとりごとに鼻歌、モノに対するこだわり、顧客側との空気など、軽めですが作者が経験者だけに、雰囲気が破綻なく上手に書けてるなあと感心しました。

 

私はこのシリーズの愛読者なのですが、シリーズの4冊目は、主人公がプロジェクトマネージャーとしてプロジェクト管理を行う話でした。

 さすがに新卒でプロジェクトマネージャーを任されるというのはライトノベルならではの虚構です(たぶん)。

ただ期限が迫るなかでまともな計画もたてられず、利害が対立する各ベンダーの間に挟まれてプロジェクトが全く進まないシーンは、真に迫っていて読んでいて胃がいたくなりそうでした。

 

無論、本書は青少年を対象としたライトノベルです。頓挫かけたプロジェクトを主人公が新卒とは思えない機転で解決乗り越えるカタルシスが最後には待っているわけです。そしてその合間合間には謎の多いヒロインと主人公のラブコメが進展します。読後間はスッキリしたものになっています。

 

つまり仕事の苦しさをリアルに描きながら、それを一流のエンターテイメントとして読者には見せているわけです。これは夏海先生の文才あってのことだと思います。

学生にどの程度受けているのかまではわからないですが、社会人読者にとって満足のいくシリーズだとおすすめできます。

 

 なお最新刊(12巻)では、シリーズ初期からの伏線を回収しつつ、「仕事は組織で行うものか、個人が行うものか」という組織のあり方も読者に問いかけるものになっています。それでいてエンターテイメントなんだからホントこのシリーズはすごいです。