雑記・英語ときどき知財の弁理士ブログ

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特許出願の請求項において、後に登場する言葉を指して「その」を使うことができるか、は気になる

(1)回転軸線に沿って延びるドリル本体

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これは上の専門書に登場する請求項の一部。最初に定義のない回転軸線が出てくるが、最後まで読むと意図はよくわかって、ドリル本体は、自身の回転軸線に沿って長く延びている、ということを表している。

ちなみに回転軸線とは、回転の中心を通る仮想的な直線のこと。英語だとrotational axisなどに相当する。

 

上記表現において、回転軸線がいきなり出てくるのが、ちょっと言葉が足りないかも、と感じれば以下のような表現も考えるかも。

 

(2)その回転軸線に沿って延びるドリル本体

(3)(それ)自身の回転軸線に沿って延びるドリル本体

(4)ドリル本体であって、前記ドリル本体の回転軸線に沿って延びるドリル本体

(5)回転軸線を備え、前記回転軸線に沿って延びるドリル本体

(6)回転軸線を中心に回転可能であって、前記回転軸線に沿って延びるドリル本体

 

以下、一つずつ検討してみる。

 

(2)その回転軸線に沿って延びるドリル本体

 

のように、回転軸線の前に「その」をつけることはある。「その」は後に登場するドリル本体を示す。

 

英語であれば、

(ii) a drill main body extending along a rotational axis thereof

 

となる。thereof(=その)は法律英語でよく使われて、of thatという意味合い。thatに相当するのがthe drill main body(ドリル本体)となる。

 

ただ英語と違い日本語の場合、ドリル本体は「その」の記載よりも後に出てくる。「その」が登場した時点では、これが何を意味するかわからないのは(1)の表現と一緒。それはそうなのだが、何かを参照しようとしている意図は出ている。

 

ただし、日本語でも一般的には「その」は、前に登場したものを指すことのほうが遙かに多いので、そのように誤読される可能性はあって後に登場するドリル本体を参照しているか不明確と感じる人は一部いるようだ。

 

それを踏まえて更に変更を加えると

 

(3)(それ)自身の回転軸に沿って延びるドリル本体

 

と表現するのは考えられるかもしれない。「自身の」が、前に登場した何か別のものを指し示す解釈は通常ありえず、「自身の」がドリル本体を示すのが明確だとおもう。

 

これを英語に直すと、

(iii) a drill main body extending along its rotational axis

 

となるのかな。ただ、少なくとも米国においては、代名詞はあまり請求項で使うのは望ましくないとされるようだ。itsを使うくらいならば、

 

(iv) a drill main body extending along a rotational axis of the drill main body

 

のようにくどくても、ドリル本体の回転軸線、と明確にいってしまうこともある。

 

ちなみに日本語の語順で同様の表現手法をとろうとするならば、

 

(4)ドリル本体であって、前記ドリル本体の回転軸線に沿って延びるドリル本体

 

みたいにするかもしれない。英語との語順が違うので「であって」を挟んでふたつのパートに分けている。「ドリル本体」が3度も登場するので、さすがにくどく感じるが、明確ではある。

特許の請求項は、美しい文であるよりも明確な文である方が価値が高い、と思えばこの表現をとることは気にならないかも。特に(iv)のような英訳を望む場合はこうするかな。

 

そのほかに考えられるのは

 

(5)回転軸線を備え、前記回転軸線に沿って延びるドリル本体

 

はありそう。回転軸線は、上記したように仮想的な線のことを意味するので、ドリル本体が備えるものなのか、という疑問は多少あるが、ドリル本体が備える属性の一つ、と思えばそこまで違和感もない、というかむしろ妥当ような気もする。

 

英語でかくと

 

(v) a drill main body having a rotational axis, the drill main body extending along the rotational axis

となるかな。こちらは語順の関係で、分詞構文を使って、2つのパートに分けて記載するような気がする。

 

更にもう一つ挙げると、

 

(6)回転軸線を中心に回転可能であって、前記回転軸線に沿って延びるドリル本体

もあるかも。回転軸線を中心に回転可能、と書くと、回転が重複するので気持ち悪いという意見もあるのだが、私はあまり気にならないかな。気になるなら回転軸線を単なる軸線に変えればよい。

 

(1)〜(5)のいずれもドリル本体が回転可能である前提を言っていなかった。このことが気持ち悪いと思えば、(6)のように明記するのは良い手かもしれない。

 

ただし、(6)と(5)は、請求項にドリル本体以外の回転軸線が登場していた場合、「前記回転軸線」がドリル本体の回転軸線を意図しているのか不明になるので別の工夫が必要だろうな。

 

ちなみに(6)を英語にすると

(vi) a drill main body rotatable about a rotational axis, the drill main body extending along the rotational axis

となり、やはり分詞構文を使って、2つのパートに分けて記載することが多い気がする。

 

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特許出願を海外にすることも多く、日本語で書類を書くときもどのような英訳がされるか、考える人は多い。