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ビジネス訴訟などの専門裁判所「ビジネス・コート」全国初開設 | NHK

ビジネス訴訟などの専門裁判所「ビジネス・コート」全国初開設 | NHK

ビジネス関係の訴訟に特化したビジネスコートが中目黒にできて、知財高裁もそちらに移転するというお話。高裁だけでなく地裁の知財部も移転するし、他にも地裁の商事部と倒産部が移転するとのことです。

移転によって裁判所に通いにくくなったとこぼす知財系弁護士先生もいましたが、多くの知財業界人にとってはそんなに影響はないかもしれません。というのもリンク先の記事にもあるように知財関連の訴訟は年間500件程度。知財の専門家である弁理士が一万人くらいいて、日本特許庁に対する年間の特許出願が30万件弱あることを考えると訴訟件数なんてごくごく僅かなんですよね。

私も知財業界に10年以上いますが日本の裁判所に行ったことが一度もないです。

知財業界の一番の多数派はたぶん特許庁に対して手続きをして特許権のような権利を獲得する業務、いわゆる権利化業務(プロセキューション)に関わっています。それに比べると、特許訴訟のように裁判所において権利を行使する業務(リティゲーション)に関わる人はずっと少ないです。

米国や中国だと知財に関わる訴訟は日本に比べてずっと多いので、日本の訴訟の少なさは特異的と思います。個人的にはちょっと残念ですね。使われることのない権利をただただ手元に溜めている感じがするので。

しかしながら訴訟で知財権の行使がなされないとしても権利の獲得が無駄と言うわけではありません。知財権を持っていると紛争を抑止する効果があります。

例えばライバル企業から特許訴訟を仕掛けられた場合、その対抗策としては自社の特許を使って相手方を訴え返す、つまりカウンター訴訟を仕掛けるというものがあります。

カウンターを食らう恐れがあるならば相手も自社を訴えることを躊躇するはずです。撃たれたら打ち返せる状況を作り出すことで戦争になることを防ぐ考え方に似ていますね。

ライバル企業が自社に対して有効な特許を持っている場合には、自社もライバル企業に対して有効な権利を持って膠着状態に持ち込まなければなりません。

互いに相手に対して攻め玉となる権利があれば、互いに訴訟を避ける動機付けが生じるので、話し合いで解決することが多くなります。具体的にはお互いの特許のライセンスを相手方に対して許諾するクロスライセンス契約が結ばれることが多いです。互いの特許の数や質、特許を使った事業の規模などを考慮してライセンス料をどちらがどれだけ負担するか、が決まります。

紛争を防ぐために権利を持つ、という考え方は一般的で上記の本などに解説があります。