英語ときどき知財の弁理士ブログ

夜九時更新。アフェリエイトリンク掲載中

前記径方向とは前述の径方向と同じ角度に限定されるのか、あるいは前述の径方向と中心を一致することだけを意図するのか

機械分野の特許の世界でよく使う用語に径方向とがある。

 

円の中心や回転の中心から放射状に延びる方向のこと。

 

アナログ時計でいうと、時計の針が中心から伸びる方向を意味する。

 

ここで、特許請求の範囲において、同じものが2回以上登場するときは、2回目以降に「前記」をつける慣例がある。

 

そのため径方向に複数回言及するときには、一度目は単に径方向と言い、二度目以降は前記径方向と言うことがある。

 

これが英語だと、最初はa radial directionで、2回目からはthe radial directionまたはsaid radial directionとなり得る。

 

しかし、このときに少し気になるのは、1回目と2回目で、それぞれの径方向が異なる角度を指し示すことがあること。

 

つまり、径方向は、360°の範囲で無数の角度の方向が該当しうる。例えば、3時の方向も時計の径方向だし、12時の方向も時計の径方向である。

 

特許請求の範囲において先の径方向が短針の方向を示し、後の径方向が長針の方向を示す場合に、両者の具体的な角度が異なる場合も当然に考えられる。

 

しかしながら、後者を前記径方向と記載してしまうと、前者が3時の方向であるとき、後者も3時の方向であると限定的に解釈されうるかもしれない。

 

これはまずい。

 

これに対して、「前記」径方向は、前述の径方向と中心が一致することだけを意図していると反論することは考えられる。

 

つまり、径方向とは中心を一致する無数の角度の方向を総称したものであって、特定の角度の方向に限定されるものではない、という反論になる。

 

この立場に立つことを明細書で明示する手はあるかもしれない。

 

「長針が延びる方向と短針が延びる方向と秒針が延びる方向は、ともに時計の径方向である。これら径方向に繰り返し言及する場合、前述の径方向を参照して後述の径方向を前記径方向と称することがある。これは前述の径方向と後述の径方向が、共通の中心をもつことを意図している。しかし、特に断りがない場合には、前述の径方向の角度と、後述の径方向の角度が異なることを排除しない。なぜならば径方向とは中心から放射状に延びる無数の方向の総称であるからである。」

 

などと書くのはどうだろう?

 

ただ単数、複数の区別が明確な英語だとこの注意書きが明確の意味をもつのか、正直私の力量では良く分からない。

 

そもそも英語だと、径方向が仮に無数の方向の総称であればradial directionsにして、その一つを意図するときには、one of radial directionsなどとすべきなのかもしれない。

 

あるいは他の手段として、

 

特許請求の範囲において2回目以降も径方向に前記をつけない

 

のは考えられる。

 

日本の審査において前記の有無はうるさく言われない。

 

国によっては2回目以降に「前記」に相当する単語が付されていないことを指摘されることもあるのだが、上述のように異なる角度を指す場合がある旨を説明すれば審査官も分かってくれるのではないか?

 

さらに別の手段として

 

特許請求の範囲において、第一の径方向、第二の径方向、などと明確に書き分ける。

 

のも考えられるかもしれない。

 

ただし、第一の径方向の角度と第二の径方向の角度が異なることを示唆していると、逆に解釈されうるかもしれない。

 

そうであれば、第一の径方向と第二の径方向が一致することも排除してないと明細書に書くておくのが良いかもしれない。

 

「長針が延びる方向と、短針が延びる方向と、秒針が延びる方向とは、ともに時計の径方向である。これらの方向を順不同で、第一の径方向、第二の径方向、第三の径方向と、区別して呼ぶことがある。なお、これらの径方向の角度がすべて異なることも、あるいは少なくとも2つが一致することもあり得る」

 

なんて感じはどうだろう。

 

せっかくなので第三の径方向も登場させてみた。

 

また、特許請求の範囲で、長針、短針、秒針それぞれの径方向が出てくる順番が事後的に変わることもあるので、どうなっても大丈夫なように明細書では第一から第三の対応関係を順不同としてみた。不明確とみなされるだろうか?

 

(広告)