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弁理士に必要な交渉学とは

弁理士の研修で、「交渉学を学ぶ価値」という一色正彦客員教授の講義を受けたので、学んだことをまとめてみました。

 

交渉学はロバーフィッシャーが権威。彼は戦争の経験があって、国家間の紛争を交渉で解決することを念頭に研究した。Win-winアプローチはこの人が発祥。アメリカは歴史の短い国なので、他国の事例も研究していて、三方よし、のような日本の事例も研究対象となっている。現在、ハーバードのロースクールで模擬交渉などの学習が提供されている。日本で交渉学を学べるロースクールとして慶応大学がある。

 

模擬交渉のやりかたの一例としては、両当事者に共通する共通情報を渡しつつ、各当事者にそれぞれ個別情報を渡す。模擬のあと、個別情報を交換することで互いの交渉の背景を知って学びにつなげる。将棋の感想戦に近い。

 

交渉術ではなく交渉学である。交渉学を学ぶと、創造的な選択肢を提示できるようになるので、パイの奪い合いではなく、共同してパイを作ることができる。

 

法廷弁護士はlitigatorと呼ばれ攻撃的、競争的な交渉をする。一方、和解交渉弁護士はSettlement Counseと呼ばれ協力的な交渉をする。

 

交渉の要諦は相手のことを察し、自分を律すること。聞くことを重視して双方の利益を見極めることも大事。なお、交渉相手が継続的な関係をもつ場合、説得的な交渉術(無理な条件を巧みに押しつけるような戦術)をつかって相手が後悔するような合意をすることは勧められない。良い関係を保つことが大事。

 

交渉には論理的なアプローチと心理学アプローチがある。後者は心理的なプレッシャーで交渉を有利にするものであるから、中長期に付き合う相手にこのアプローチをとることは勧められない。ただし相手から仕掛けられたときに対抗するため、心理的アプローチを知ることは必要。交渉は、心理面と論理面の組み合わせ。心理面の傾向を認識して、論理的に考える。

 

交渉では事前準備やアジェンダが大事である。交渉の前に、自分に有利になるように状況を固めておくのが重要。

事前準備として、Mission、ZOPA、BATNAを考えておく。中長期的な視点で達成したことがmissionである。これは何のために交渉をやるのか、など問いかけてmissionに立ち戻る習慣をつける。

ZOPAはmissionを実現できる目標であり、交渉条件の幅を示す。

BATNAは最善の代替策。Missionが実現できない相手と組むのは不幸。必ず事前に代替策を準備する。

 

BATNAを早く開示しすぎると、破綻する可能性が高くなる。代替策があるならば交渉を継続する意味がない、と相手に思われてしまう。ただこちらに代替策がないと思われれば相手が強気の交渉を仕掛けてきてしまうので、タイミングは難しい。

 

相手のコンテキスト(相手の交渉の背景、目的、考え)に仮説を立てる。ロジックツリーで仮説を整理する。

 

二分法、たとえば、値引き要望にYESかNOで考えるだけなのは良くない。質問して値引き要求のコンテクスト(理由)を聞き出す。ただコンテキスト(背景、真意)の引き出し方は難しい。交渉がうまい人は質問もうまい。

 

質問は以下の3つを意識する。

(1)相手を学ぶために質問する。詳しい背景を開示をしてもらうとか、具体例を挙げてもらう。例えば、値引きに応じれば長く付き合える、と示唆された場合、これまで長くつながりをもった事例をあげてもらう。

 

(2)相手の言葉を言い換える。○○と理解しましたが、謝った点があれば、教えてください、など。こちらが理解した内容を示して、互いの理解度のギャップを埋める。

 

(3)相手の感情を理解して認める。ただしこれは相手の要求を同意することではない。過去の経験から不機嫌になることもあるので、その気持ちを認める。ただし、感情を理解して認めるのは難しく、交渉で実際に試してもうまくいかないこともある。

 

交渉には、分配型(単にわける)、交換型(お互いにほしいものを交換する)、創造型(新しい価値をつくってしまう)の分類がある。

 

オンラインは自分の表情を確認できるが、対面よりも難しいことが多い。意図的でない顔の表情(非言語COM)からは相手側の交渉のコンテキストを推測できる。

 

言いながら実際にやったことは2週間後も90パーセント覚えている。読んだだけのことは10パーセントしか覚えていない。交渉学を学ぶには実線が大事。

 

こちらのZOPAの下限を念頭に置いた場合、例えば、ライセンスの料率が10パーセントであれば交渉を結んでも良いと本社に言われた場合に、この最低ラインがアンカリングになる悩みがある。つまり最低ラインで交渉を結んでしまって損をしかねない。これに対しては、自社でその最低ラインを設定した背景をしったり、あるいはBATNAのように別の提案ができるようにしたりすると、最低ラインを超えた交渉締結ができるかもしれない。

 

力関係がある相手と交渉する場合には、どうするか。他の要素と組み合わせして相手のメリットになることを提案するなどが考えられる。それが難しければ、数年後に交渉を見直しする条件を契約に入れることが考えられる。数年後、力関係が変わったときにはこちらの条件を良くするきっかけになる。

 

講義をしてくださった一色先生の著書。

 

一色先生が面白いと勧めてくださった本。

 

私が読んだことのある隅田先生の本。一色先生も隅田先生の講義を勧めていらっしゃった。