雑記ときどき知財ブログ

知財中心の雑記ブログ

リコー事件で権利濫用が否定されリサイクル業者の特許権侵害が認められた主な理由

〈リコー事件とは〉

リコーが販売したプリンタ用の使用済みカートリッジを回収して中身(トナー)を再充填した上で販売していたリサイクル業者がリコーに特許権の侵害であるとして訴えられたのがリコー事件。

 

これに対してリコーは不正競争防止法に違反しているので、その特許権の行使は権利の濫用であるとリサイクル業者が反論し、地裁もその反論を認めたので注目を集めた。

 

最終的に知財高裁では地裁とは異なる判断をしたので以下にまとめた。

 

〈特許の基本的な考え方〉

通常、正規に販売された特許製品をリサイクル業者が回収して転売する行為は合法。ただし、リサイクルにあたり交換される部品について特許がある場合には、その部品特許の権利者に承諾なくリサイクル品を販売することは部品特許の侵害に該当する。リサイクル品に含まれる部品は、新たに製造されたものであり、特許権者が正規に販売したものではないので。

 

リコー事件の場合は、カートリッジに使用履歴情報を記憶するICチップが取り付けられていて、リサイクルにあたってこのチップが交換されていたので、リコーが持っているチップの特許の侵害であると訴えられることになった。

 

〈事件の特殊性〉

ここで話が複雑になるのが、チップには再利用をしにくくする記述的な制限が課せられていた事。具体的にはチップに記録された情報が書き換えられないよう制限されていた。使用済みカートリッジのチップをそのままリサイクル品に使ってしまうと、カートリッジのトナーの残量がプリンタのモニタに表示されなくなる。

 

これではリサイクル品の利便性が大きく低下するのでチップを新しいものに代えざるを得なかった、というのがリサイクル業者の言い分。チップを再利用しにくくして特許権の侵害を余儀なくするリコーの行為は、反競争的であって不正競争防止法に違反するから、リコーの権利行使は権利の濫用であって認められるべきでない、と主張した。

 

上に書いたように地裁はこのリサイクル業者の主張を認めたので、リコーが知財高裁に控訴していた。

 

〈高裁の判断〉

知財高裁は、地裁の判決を覆してリコーの権利行使を認めた。これは主に以下の理由による。

 

(1)チップを交換しなくてもトナー残量が表示されないだけでリサイクル品の利用自体は可能なので、リサイクル品の競争力がそこまで低下するわけではない

 

(2)特許権侵害を回避可能な実用に耐えうる方法がある。つまり特許発明の技術的範囲に含まれないチップができる。

 

(3)チップの書換制限はカートリッジの品質を維持する目的上、相応の合理性がある。

 

〈コメント〉

特許権の行使が権利の濫用でないとした判断において、上記の(1)〜(3)のうち、(2)が与えた重みがどの程度なのか、のいうのが気になった。

 

できるだけ回避されないのが望ましい特許権とされているので、回避技術があることが特許権の行使を認める要件であるとするならば、それは望ましい特許権の形と矛盾してしまう。また特許権者側から回避技術が存在することを証明するのが必要になれば、特許の弱みを自分から明かすことになる。

 

〈参考文献〉

月刊パテント 2023年3月号 特許製品の流通と「取引の安全」−リコー事件に寄せて

森本晃生