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サポート要件と実施可能要件は共に明細書の開示とクレームとの対応関係を求めるので実質一緒とする考え方もあるが両者を区別する考えもある

標記事項について興味深い論説があったので、簡単にまとめてみる。

 

サポート要件と実施可能要件の異同について論ぜよ、なんて問題が試験にでたら役に立つかもしれない。

 

ただちゃんと理解できないところもあるし、あくまで雑なまとめでもあるので、正確なところは原文を直接確認して欲しい。

 

[INPIT]特許研究 第78号(2024年9月発刊) | 独立行政法人 工業所有権情報・研修館

 

特許研究 第78号(2024年9月発刊)

サポート要件と実施可能要件 ―両者の関係と,達成すべき結果としての「効果」が 請求項中に記載された場合の取扱い― Support Requirements and Enablement Requirements –– The Relationship between These Two Requirements and How to Handle Cases Where an “Effect” as a Result to Be Achieved Is Described in Claims

戸次一夫

 

正直、自分の中ではサポート要件と実施可能要件の両者が混然一体となっている。どちらが拒絶理由として打たれても、気にしないで同じように検討していた。

 

ただ、まず大前提として、次の違いがある。

 

・サポート要件は、クレームに求められる要件。クレームされた発明は、明細書(より正確にいうと発明の詳細な説明)に開示されたものでなくてはならない

 

・実施可能要件は、明細書に求められる要件。明細書は、クレームされた発明を実施可能に開示しないといけない

 

といっても、どちらもクレームと明細書の対応関係を求めるものなので表裏一体で実質同じと考える説がある(表裏一体説)。

 

一方、異なる規定である以上、両者を区別すべきという説もある(区別説)。

 

区別説の中でも、どう区別するかで色々と流派があるみたいだが上記の論文の説によると、実施可能要件は「実施」という観点を用いて、サポート要件は「課題」という観点を用いて、要件を満たしているかを判断するようだ。

 

実施可能要件は、クレームされた発明が明細書の開示から当業者が実施可能であれば、その実施形態によって、明細書から読み取れる発明の課題が解決できなくても構わない。

 

一方で、サポート要件は、クレームされた発明によって明細書から読み取れる発明の課題が解決できる必要があるが、クレームされた発明が明細書の開示から当業者にとって実施可能かどうかは問われない(実施可能であると仮定される)

 

つまり、クレームが明細書の開示と対応していない場合でも、以下のように拒絶理由を分けるようだ。

・クレームされた発明を、明細書の開示に基づいて当業者が実施できない場合→実施可能要件違反

・クレームされた発明が明細書から読み取れる発明の課題を解決しない場合→サポート要件違反

 

具体例として筆者の方が挙げていたのは次のパターン

 

明細書に記載の発明の課題:飛翔体によって地上の二点間で人を空輸する

明細書に記載の実施例:飛行機

 

クレーム:人工衛星→実施可能要件違反&サポート要件違反。明細書の飛行機の開示からは当業者は人工衛星の実施(製造)ができないし、仮に実施できたとしても、人工衛星は宇宙から帰還しないから人を地上の二点間で空輸できない(課題を解決できない)。

 

クレーム:紙飛行機→サポート要件違反。明細書に飛行機の開示しかなくても当業者ならば紙飛行機の実施(製造)はできるだろうが、紙飛行機では人の空輸という課題を解決できない。

 

クレーム:旅客用ロケット→実施可能要件違反。明細書の飛行機の開示からは旅客用ロケットの実施(製造)はできないが、仮に実施できれば人の空輸は可能だと考えられる。

 

なお、サポート要件を上記のように課題の観点から判断する場合、クレームに課題に対応する効果を記載することでサポート要件を満たすか、も論じられていた。難しかったので理解がたりない部分もあるのだが、効果だけを書いてサポート要件をクリアする、というわけにはいかず、その効果を達成する構成もクレームで書くことが必要になる、というようなことが論文に書かれているようである。

 

ここからは私の雑談。

 

上の論文では、発明の課題とサポート要件について記載されていた。ただ発明の課題は、進歩性の判断とか引用文献の適格性とか、権利範囲の解釈とかにも関係し得る。明細書に課題をどのように記載するかは結構悩ましい。

 

機械分野の場合、課題を明細書に明記していなくても、明細書に開示された実施形態から課題が読み取れる、ことがあると思われる。というのも機械の構造を書けば、この機械がどのような挙動をしてどのような目的で使われるか、が自ずと明らかになることがあるためである。そうすると機械分野では出願時には課題を明記していなくとも、後から好ましい発明の課題を主張できるかもしれない。ただ明記していないと、審査官や裁判官から想定外の課題を認定されることもあり得るかもしれない。

 

一方、私は実務経験がないが、化学・薬学の場合だと、化学式などの構造を明細書で明らかにするだけでは、それがどのような作用を発揮するか分からず、課題がよみとれないかもしれない。そうすると出願時に課題を適切に記載しておかないと、後から何も課題を認定できず、困ることが比較的多そうな気がする。

 

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