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特許における利用発明において実務上説明が難しい3つのポイント

特許には利用発明という概念があるが、この説明は難しい。

 

利用発明について簡単に言うと、次の通り。椅子の発明(以下、被利用発明)が先にあった場合、その椅子に背もたれをつけることを新たに思いつくと背もたれ付きの椅子は利用発明となる。

それぞれの発明について特許があったり、特許を取ろうとしたりする場会、以下の難しさがある。

 

(1)第三者による被利用発明の先願特許があれば利用発明の後願特許を取得しても実施できない。

(2)被利用発明について広い先願特許を持っても第三者に後願特許を取られると利用発明が実施できなくなる。

(3)利用発明も被利用発明も自分でなし得た場合は、上記の問題は生じないが、先に被利用発明を出願していた場合、その先願の優先権期間と出願公開との関係で利用発明について出願する場合の戦略が変わってしまう。

 

(1)は、きりんさんが椅子の発明の特許を持っていて、その後、カバさんが背もたれ付きの椅子の発明をして特許を取得した場合に相当する。

カバさんは背もたれ付きの椅子の特許を持っているにも関わらず、それを商売のために製造したり販売したりできない。なぜならば背もたれ付きの椅子には、きりんさんの椅子の特許権が及ぶから。カバさんその行為は、きりんさんの特許権の侵害になってしまう。

仮に、カバさんの背もたれ付きの椅子の発明が、きりんさんの椅子の発明に対して進歩性があると特許庁の審査で認定されていたとしても上記の結論は変わらない。先願の発明に対して利用関係あったとしてもそれ自体は後願発明の審査において拒絶理由にはならない。

 

本来、自己の特許発明は独占的に使用できるはずという特許の原則に反するので納得するのが難しいけれど、他の人の特許発明を利用する発明は、その人の許諾が必要になる。

 

逆に、(2)は次のような感じ。きりんさんは、椅子の特許を持っていたにも関わらず、背もたれ付きの椅子の特許をカバさんにとられると、背もたれ付きの椅子は商売上、製造、販売等できなくなる。そのような行為は、カバさんの特許権を侵害になるから。

きりんさんの特許は、椅子全体に及ぶ広い権利であるものの、きりんさんの椅子の発明を利用した発明を他の人にされてしまうと、自分の特許権が及ぶにも関わらず、その利用発明を自分が実施できなくなる。

自分が独占実施できる範囲が、あとから成立した他人の特許によって事後的に狭まった感じになってしまうのでこちらも直感に反して納得が難しい感じがする。

 

(3)は、椅子と背もたれ付きの椅子を、ともにきりんさんが発明した場合に相当する。

先に椅子の発明を出願したあとに、背もたれ付きの椅子を発明した場合、背もたれ付きの椅子をどのように出願すべきか。

 

仮に、先の出願(先願)の優先権期間内、すなわち先願の一年以内に、後の出願(後願)ができそうな場合、後願を国内優先権主張出願にすれば良い。

つまり、椅子と背もたれをがある椅子の両方を後願にまとめてしまって、両方の権利をいっぺんに後願で狙うことが可能になる。この場合、先願は自動で取り下げ扱いになる。

 

次に考慮するのは、先願から一年経過後だけど一年半は経過していない場会。一年を経過しているので後願を優先権主張出願にすることはできない。

一方、先願は出願公開前なので、特に自ら公表しているなどの場合を除き、先願の椅子の発明はまだ非公知である。そうすると、背もたれ付きの椅子は、椅子に対する進歩性を仮に持たなくても、特許にすることができる。

つまり先願によって椅子の特許を取り、後願によって背もたれ付きの椅子の特許を取れる。

 

最後に考慮するのは、先願から一年半がたち、先願の内容が公開された場合、つまり先願が出願公開された場合を考慮する。この場会は、椅子が公知なので、背もたれ付きの椅子は椅子に対して進歩性が必要になる。

元々、背もたれを持っていなかった椅子に背もたれをつけることは、通常の技術者であれば簡単に思いついたりできませんよ、という主張をして特許庁に納得してもらう必要がある。この説得が難しいと事前の検討で思えば、後願は諦める、という場合もある。

 

ちなみに、実務において、先願の発明に対して後願の発明が純粋に教科書的な利用発明になる場合はそんなに多くない。後願発明において微妙に先願発明と違うところがあったりするので。

 

ただ、利用発明のような単純化された概念を持ち出すと、上記のような状況の説明がわかりやすくなるので利用発明について説明する機会はたまにある。

 

ちなみに意匠法には、利用意匠という概念があるが利用発明の考え方とはまた微妙に異なる。これは意匠における類似の概念を知らないと理解が難しい。

 

売主居住中の中古マンションを住宅ローンを組んで購入する流れ

売主さんが居住中の中古マンションをローンを使って購入したのでその流れをまとめてみた

 

仲介業者(不動産屋)に行く

何はともかく不動産の売買を仲介してくれる不動産屋を探さなくてはならない。野村や三井、東急といった各地に支店があるような大企業の他、地元密着の小企業までいろいろある。

たまたま駅前に店舗があるのをみつけて来店したところが社長自ら担当者になってくれる小規模の不動産屋だった。最終的にすべてそこにお世話になったのだが、特段の問題は感じなかった。

不動産屋から紹介されるリフォームやハウスクリーニング、保険代理店の業者が社長の個人的な知り合いである地元密着の個人事業者、小企業だったのが印象的だった。おそらくだが大手の不動産屋であればリフォーム等もグループ企業や提携大手企業を紹介されるのではないか。

不動産屋に支払う仲介手数料だが物件額の3%+αが上限という法律の決まりがあるのでたぶん不動産屋の規模には大きく依存しないと思う。

また、どの不動産屋に行ってもレインズという共通データベースにアクセスできるので紹介可能な中古マンションの物件もほぼ一緒と思われる。

 

物件の周囲の情報を教えてもらう上では不動産を購入したい地区にある不動産屋に行くのが無難。

 

物件を紹介してもらい内見を申し込む

予算や希望地区などを伝えると前述したレインズというデータベースでサーチしていくつか候補物件を紹介してくれるはず。私の場合は200件弱の物件情報を一緒に見ながらおすすめを探してくれてとてもありがたかった。

よい物件が見つかれば売主さん側の仲介業者とコンタクトをとって内見の申込みをしてくれる。

 

住宅ローンの仮申込

物件を購入する費用を一括で払えない場合は住宅ローンを組む必要がある。住宅ローンを組めるかどうかの銀行による本審査は物件の売買契約を交わした後に行われるが、それよりも前の段階でも簡易的な仮審査をしてくれる。

お金を借りられる見通しがないと売主さんさんからも信用されず、その後の手続が滞る可能性があるので内見する物件を対象にしてローンを組めるか仮審査してもらうことをすすめられた。通常、1日、2日くらいで結果が出る。

仮審査では、収入を証明する書類(源泉徴収票)や身分証とかが必要になることがあるから事前に用意すると良い。

一般的な銀行や信用金庫などの住宅ローンの仮審査は不動産屋から申込可能。不動産屋に紹介してもらったところで一つ仮審査を通しておいたのでその後の手続きが一部楽だった。具体的には売主さん側の不動産屋へ購買力がある人ですよ、と私のことを説明してくれた。

なお不動産屋に紹介してもらった銀行以外にも良い条件でお金を貸してくれそうなところに自分から仮審査を申し込んでも当然良い。

 

ちなみに仮審査によって借りられる上限とされる額はどこの銀行も物件価格の110-115%くらい。リフォーム予定があってもその金額は住宅ローンに反映してくれない。もしもリフォーム分のお金を借りたいなら別途リフォームローンを組む必要がある。

 

なお住宅ローンを組むには健康診断の結果を提出して健康面でもチェックが必要。具体的には、住宅ローンを組むためには団体信用生命保険に加入するのが必須で、その際に健康面が問題になる。

仮審査の申し込み時やその結果通知後に健康診断の結果を提出することができるようになることが多いので気になる点がある人は早めに提出しておくとよいかも。しばらくすると団体信用生命保険に加入できるか否か結果が通知されるか、通知されなくても銀行に電話すれば教えてくれることが多い。

 

住宅ローンはいろいろあるので購入する不動産の次くらいにしっかり検討したほうが良い。

 

内見と購入申込

不動産屋に行った日に内見の申込みをして次の週に物件の内見に行った。立ち会うのは売主さん、売主さん側の不動産屋、こちらの不動産屋。

 

その時点ではまだ売主さんが居住しているので気が引けるのだが設備に故障や汚れがないかなどはきちんとチェックするのが良い。現状引き渡しとなるのでなにか問題があれば自分たちで直す必要がありリフォームに必要な金額が変わる。

 

最終的に購入した物件は内見時点で人気があり前後に他の購入希望者の見学の予定がたくさん入っているようだった。どうも売主さんは引っ越しの予定がすでに決まっていてそれまでに居住物件を売ることに迫られていたので相場よりもやや安くしていたようだ。

私達も気に入ったので内見の場で購入申し込みをする旨を伝えて内見は終了。

 

その後に正式な申し込み書類を書いた。この時点で前金をいくら払う用意があるか伝えなくてはならない。

 

絶対の決まりはないが通常は物件価格の5%〜10%を前金として払うと伝えることになる。申し込みが受理されるとすぐに売買契約を交わすことになって前金もその際に必要になるので申し込み時点でお金が準備されていることが望ましい。

 

なお申し込みが複数ある場合には売主さんが誰に売るのか決めることになる。資力に疑問を持たれると売るのを躊躇されるかもしれないので事前にローン仮審査を通しておくと良いのは前述した通り。

 

申込みの受理と売買契約

申し込みが受理されると契約を交わすことになる。関係者が一堂に集まることが多いようだが、都合がつかなかったのか売主さんど私が別々に契約書に署名捺印することになった。

私の場合は該当しなかったが不動産屋に払う仲介手数料の半金を契約時点で支払う場合もあるようだ。そうすると前述した前金と合わせて最大で物件価格の11.5%の金額がこの時点で必要になる。住宅ローンを借りるにせよある程度の現金の用意は大事と思われる。

 

住宅ローンの本審査と契約申込

契約書が手に入ると住宅ローンの本申込をすることになる。落とされるのが怖かったので仮審査が通った銀行のうちの3行に本審査申込をした。

なお仮審査で提出していなかった場合には源泉徴収票、健康結果が必要。さらに本審査では課税証明書と家族全員の住民票(本籍地とマイナンバーは記載させないもの)の提出も必要。

通常は1週間から2週間で結果が出る。理由はよくわからないのだが3行中1行の審査に落ちてしまった。ただ2行が本審査にも通ったので金利が安いほうと契約することにした。

なお銀行ローンを組む場合には借入額の2.2%の手数料が必要。借りた額が口座に振り込まれた直後に手数料分の結構な金額が引かれてしまう。本審査で申し込んだ借り入れ希望額よりも実際に借りる額を下げることは可能なので、本審査に多めに申し込んでおきつつ、実際にいくらお金を借りるかはその後にちゃんと考えておくと良い。

契約するためには銀行口座を開設する必要がある。時間的に余裕がなかったため本審査を申込だ銀行には事前に口座も作った。その結果無用の口座が2つ増えることになった。

 

リフォームやハウスクリーニング、火災保険、引っ越しの申込、住宅財形の解約

リフォームやクリーニング業者、火災保険の代理店は自分で探しても当然良いのだが、吟味する時間もなかったので不動産屋さんに紹介してもらったところにした。やり取りを不動産屋に仲介してもらうこともあって楽なこともあった。

引っ越しはやはり不動産屋にチラシをもらった四社に見積もりを申し込んだ。見積もりの順番として本命は後ろに持ってくる方が金額交渉しやすいかと思う。

物件の売買契約書を手に入れたのでそれを使って住宅財形の払い戻し手続きもした。ただし手続きに1月以上かかるとのことで積み立てていたお金を物件購入の決済時点で使うことはできなかった。中古物件の売買は契約から決済までの期間が短いことがあるので手続きに時間が必要な住宅財形とは相性が悪い。

 

住民票を新住所に移す

住宅ローンの本審査と契約申込が終わるといよいよ物件がかえる見通しがたつ。その後の手続の便宜のため住民票を新住所に移すことを不動産屋にすすめられたので役所に手続きした。

詳しくはわからないのだが後述する登記手続きを旧住所でしてしまうと引越し後に住所を新住所に変更する必要があって二度手間で余分な費用が必要になるようだ。ただ住宅票を決済前に移すのは必須ではなく旧住所に基づいて手続きすることも可能。

住所変更の手続き(転居手続き)をする際には後述の登記手続きで必要な住民票と印鑑登録証明書も用意すると良い。

 

登記手続と決済

住宅ローンの契約には抵当権の設定登記をしてもらう必要があるので契約申込後に銀行指定の司法書士の事務所に出向いて印鑑登録証明書2通と住民票を渡し必要書類に署名捺印した。前述したようにすでにこれらの書類は新住所にかえてあった。住民票には本籍やマイナンバーの記入はないものにするのが良いようだ。

 

なおこれとは別に不動産の所有権の移転登記も必要。所有権の移転登記は不動産屋に紹介してもらった別の司法書士さんにお願いすることにした。この司法書士さんが物件の決済日(売主さんに銀行からお金が振り込まれる日)に来てくれて、売主さんや各不動産屋さん立ち会いのもと所有権移転登記のための必要な手続をしてくれる。このときに必要なのは住民票。

抵当権の設定登記や物件の所有権の移転登記においても税金や司法書士さんに対する報酬の費用が発生する。

決済の日には、ローンで借りたお金のうち売主さんへ支払われるお金と銀行へ支払う手数料と、を除いたお金が手元に残る。不動産屋や司法書士さんへの支払はこの決済日が期限に指定されると思うので振り込みする。

 

物件の引き渡し

通常は決済の日に物件引き渡しなのだが売主さんの都合で決済のあと一週間後に物件の引き渡しだった。不動産屋に鍵を受け取りにいき、大まかな手続きが終わった。

 

物件決済や引き渡し後の諸々

物件引き渡し後、引越までの間にはリフォームやハウスクリーニングが入ることになる。

また、決済日に相手側の不動産屋から管理費の引き落としの手続き書類をもらったので手続きした。その他、新居の細かい手続きについて分からないことが出たときは直接、新居の管理人さんや管理会社に電話して教えてもらった。

また住んでいる賃貸の解約手続きをした。

 

所感

売主さんが居住中の中古物件の売買はスケジュールが売主さんの都合で決まっていくので詳しく話を聞かないと今後の見通しが読めないことがある。また修繕の必要度合いなども個別に異なる。

臨機応変な対応力が必要と感じた。

中古マンションの購入でもすでに前所有者が退去してリフォームも完了している物件だとだいぶ変わってくると思う。

 

 

 

 

 

リコー事件で権利濫用が否定されリサイクル業者の特許権侵害が認められた主な理由

〈リコー事件とは〉

リコーが販売したプリンタ用の使用済みカートリッジを回収して中身(トナー)を再充填した上で販売していたリサイクル業者がリコーに特許権の侵害であるとして訴えられたのがリコー事件。

 

これに対してリコーは不正競争防止法に違反しているので、その特許権の行使は権利の濫用であるとリサイクル業者が反論し、地裁もその反論を認めたので注目を集めた。

 

最終的に知財高裁では地裁とは異なる判断をしたので以下にまとめた。

 

〈特許の基本的な考え方〉

通常、正規に販売された特許製品をリサイクル業者が回収して転売する行為は合法。ただし、リサイクルにあたり交換される部品について特許がある場合には、その部品特許の権利者に承諾なくリサイクル品を販売することは部品特許の侵害に該当する。リサイクル品に含まれる部品は、新たに製造されたものであり、特許権者が正規に販売したものではないので。

 

リコー事件の場合は、カートリッジに使用履歴情報を記憶するICチップが取り付けられていて、リサイクルにあたってこのチップが交換されていたので、リコーが持っているチップの特許の侵害であると訴えられることになった。

 

〈事件の特殊性〉

ここで話が複雑になるのが、チップには再利用をしにくくする記述的な制限が課せられていた事。具体的にはチップに記録された情報が書き換えられないよう制限されていた。使用済みカートリッジのチップをそのままリサイクル品に使ってしまうと、カートリッジのトナーの残量がプリンタのモニタに表示されなくなる。

 

これではリサイクル品の利便性が大きく低下するのでチップを新しいものに代えざるを得なかった、というのがリサイクル業者の言い分。チップを再利用しにくくして特許権の侵害を余儀なくするリコーの行為は、反競争的であって不正競争防止法に違反するから、リコーの権利行使は権利の濫用であって認められるべきでない、と主張した。

 

上に書いたように地裁はこのリサイクル業者の主張を認めたので、リコーが知財高裁に控訴していた。

 

〈高裁の判断〉

知財高裁は、地裁の判決を覆してリコーの権利行使を認めた。これは主に以下の理由による。

 

(1)チップを交換しなくてもトナー残量が表示されないだけでリサイクル品の利用自体は可能なので、リサイクル品の競争力がそこまで低下するわけではない

 

(2)特許権侵害を回避可能な実用に耐えうる方法がある。つまり特許発明の技術的範囲に含まれないチップができる。

 

(3)チップの書換制限はカートリッジの品質を維持する目的上、相応の合理性がある。

 

〈コメント〉

特許権の行使が権利の濫用でないとした判断において、上記の(1)〜(3)のうち、(2)が与えた重みがどの程度なのか、のいうのが気になった。

 

できるだけ回避されないのが望ましい特許権とされているので、回避技術があることが特許権の行使を認める要件であるとするならば、それは望ましい特許権の形と矛盾してしまう。また特許権者側から回避技術が存在することを証明するのが必要になれば、特許の弱みを自分から明かすことになる。

 

〈参考文献〉

月刊パテント 2023年3月号 特許製品の流通と「取引の安全」−リコー事件に寄せて

森本晃生

 

 

 

 

商標法において不使用取消審判で取消を免れるための使用が商標的である必要があるか

商標法において不使用取消審判で取消を免れるための使用が商標的である必要があるか、というのは論点の一つ。


使用していればそれが商標的な使用でなくても取り消しを免れる、という考え方はおおよそ次のような感じ。

商標的使用に該当するかどうかというのは不明確であり、使用しているにも関わらず使用形態によって権利が取り消される可能性があるのは権利者にとって酷。また、第三者の商標選択の余地を狭めない程度に不使用商標を取消せれば十分であると不使用取消審判の趣旨を捉えれば、使用さえしていれば、それが商標的使用かどうかを問題にするほどの話でもない。

 

ただ、裁判例としては不使用取り消しを免れるためには商標的な使用が必要としたものが多数派。本来、商標法は商標に化体した信用を保護する制度であることから、信用形成がなされない使用態様しかされていないのであれば、商標登録を維持する必要がない、ということのようだ。また、非商標的な使用しかされていない商標登録を存続させていると、それだけでもやはり、第三者の選択の余地を狭めてしまう、という考えもあるらしい。

 

 

法改正よりもさらに踏み込んだ算出法によって高額の損害賠償を認めた事例


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特許侵害の損害 広く認め 3億9000万円余の賠償命じる 知財高裁 | NHK

 

マッサージ機器の大手同士が争っていた特許侵害訴訟で四億円弱の損害賠償金が認められたというお話。近年は比較的、高額の損害賠償が認められることが多くなってきました。日本でも特許の価値が高まる流れ何でしょうか。

 

ここまでならまぁ普通の話なんですがオヤっと思ったのが以下の記載。

 

これまでより広い範囲で特許侵害の損害額を認定する初めての考え方を示し

判決では損害額について初めての考え方が示されました。

この記事の記載だけだとやや漠然としていたのですが次の日経の記事ではよりはっきり記載していました。

 

マッサージチェア特許訴訟合戦、損害広く認め高額賠償も: 日本経済新聞

 

侵害者が得た利益の額にライセンス相当額を合算して損害賠償額を算出した結果、高額の賠償金になったようです。これは私の知識の中には無い話だったので正直、混乱しました。

 

侵害品の販売によって権利者が失った利益の額に対して、さらにライセンス相当額を合算して損害賠償金を算定する方法は令和元年の法改正で導入されました(102条1項)。

 

ただ権利者が失った利益ではなく、侵害者の利益に対して、さらにライセンス相当額を合算するのは法律に規定ないはずなんですよね。

 

記事では法改正より踏み込んだ算出法、という青木孝弁理士のコメントが記載されていました。

青木 孝博 | 法律事務所ZeLo・外国法共同事業

 

日本の知財界もどんどん進歩しているみたいです。

 

 

 

 

初心者が特許事務所を探すときの留意点  

知財部員として知財業界に10年以上いながら特許出願を依頼する事務所を探したことがありません。依頼する事務所が既に決められて固定化しています。

したがって以下は実体験ではなく机上の空論なのですが、これまで全く特許の申請(特許出願)をしたことのない企業が、良い特許事務所を探す上での注意点を考えてみたいと思います。

 

前提:特許は申請するのではなく出願するもの

一般のニュース等では特許を申請する、などと言いますが特許法では「申請」ではなくて「出願」、と言います。
したがって特許事務所に問い合わせをするときは、特許「出願」を考えている、となどというと良いでしょう。
ただ特許事務所の中には、特許に馴染みのないお客さんのために、あえて申請という言葉を使っていることもあります。申請という言葉を使っていても悪い事務所というわけではないのでご安心ください。

 

前提:特許出願の手続きを依頼する相手は弁理士

特許庁に対して特許出願の手続きを代行してくれるのは弁理士です。知名度は低いですが覚えてください。行政書士司法書士、税理士ではありません。弁理士の資格を持たない人が有償で特許出願業務をするのは違法です。
なお法律上は弁護士も特許出願の代理人になれるのですが、専門的に特許の出願業務をしている弁護士はほぼいないので依頼先としては無視して大丈夫です。
弁理士が運営する事務所の名称はある程度自由に決められるのですが、特許事務所、特許商標事務所、弁理士事務所、知財事務所などが一般的です。弁理士法人という形態をとる組織も多いです。Webで検索等するときに参考にしてください。本記事では特許事務所と呼ぶことにします。

 

口コミは有効そう。ただし競合他社が依頼している特許事務所には注意

特許出願のためには発明を文書にして表現してもらう必要があります。技術の理解のほか、事業への理解が必要ですし、特許庁における審査基準や特許訴訟に関する判例の動向に基づいて工夫をして書いてもらわなければなりません。
特許事務所のウエブサイトを見るだけでは仕事の質はわからないかと思います。
そうすると、すでに特許事務所に特許出願をしたことのある企業に話を聞いておすすめの事務所を教えてもらう、という戦略はあるかと思います。
ただし他社の仕事が依頼されて特許事務所が忙しくなってしまうことを懸念されると正直に教えてくれないかもしれません。あと競合他社に対して、おすすめの特許事務所を聞くことは避けたほうが良いでしょう。なぜならば特許は競合を市場から排除するための権利だからです。特許事務所は既存クライアントの不利益になるような仕事の依頼は倫理的に受けません。


仕事の質は特許事務所だけでなく担当弁理士によっても違うかも

特許事務所に複数の弁理士がいる場合、担当してくれる弁理士によっても仕事の質が異なることが考えられます。
事務所内でも質を一定に担保する努力はしていると思いますがやはり担当者によってバラツキが出ることはあると思います。上で書いたように、特許事務所の評判を聞くならば、どの弁理士に担当してもらっているかも合わせて聞くのが良さそうです。


特許化の成功率は気にしなくて良い

特許取得を目指す場合、特許出願をしたあと特許庁に審査の請求をします。審査の結果として不備がみつからなければ特許として登録できます。逆に何か不備があってそれを解消できなければ出願が拒絶されます。特許化できません。
これを踏まえて特許事務所の評価項目として特許化の成功率に着目されることがあります。しかしこれはあまり気にしなくて良いと思います。
というのも権利の内容を問わなければ特許化成功率を高くすることができるからです。
特許権には広さという概念があります。様々なバリエーション・色々な形態の発明を包含できるのが広い権利です。逆に特定のごく限られた構成の発明のみを含むのが狭い権利です。
広い権利を狙おうとすると、その広い領域のどこかに粗が見つかれば拒絶されます。特許化成功率は低くなります。逆にごくごく狭い権利にすると高い割合で特許化できますが、ほとんど誰も欲しがらないようなつまらない権利になってしまいます。

特許化成功率と権利の広さのバランスが妥当かどうかは、前者だけからは判断できません。成功率が低くても、それは広い権利化に挑戦した結果やむを得ず生じたものかもしれません。

 

特許事務所には専門の技術分野がある

発明は自然科学を利用したものなので、化学や情報、機械、バイオなど色々な分野のものがあります。広い技術分野を手広く扱っている特許事務所もありますが、大抵は得意分野があるので発明の技術分野にマッチする特許事務所を選ぶと良いです。

 

特許事務所の規模や既存のクライアントの規模に注意

大企業からたくさんの仕事を請け負っている大手の事務所だと、初めての特許出願の依頼をそこまで大事にしてくれないかもしれません。
というのも大規模な特許事務所は大口の仕事の依頼をしてくれる大企業向けに特化していることもあるからです。大企業は特許出願に慣れているので、発明についても依頼の段階である程度社内で練られています。また仕事の依頼量も多いです。
そんな仕事を中心に扱う事務所だと、単発の仕事の依頼、特に特許に不慣れなクライアントを手取り足取りサポートすることが必要な依頼を好意的に受けてくれないかもしれません。
逆に中小企業やベンチャーへの対応に強い中小規模の特許事務所もあります。

 

東京の事務所を探すか地元の事務所を探すか

弁理士や特許事務所はかなり東京に集中しています。次いでガクッと下がって大阪といったところです。もし地方で特許事務所を探すとなると選択肢がかなり限られることになります。今はウエブで特許事務所と面談することも可能になってきたので、地元ではなくて東京の事務所を探すのも手だと思います。
ただ、経験上、発明の相談では、試作品などを実際に見せながら打ち合わせすると議論が深まることも多いです。そのような機会を求めるならば地元の特許事務所から探すのもかなり良いと思います。

 

弁理士特許庁に提出した書類は公開されて無料で誰でも見られる

特許事務所で働いている弁理士の仕事ぶりを依頼前に確認したい、ということもあるかと思います。特許庁に提出された書類というのは特許情報プラットフォーム(J-Plat Pat)というサイトで公開されるのでそれを確認するのが良いでしょう。無料で誰でも使えます。登録も不要です。


j-platpat

上のサイトで、検索項目に代理人を選び、意中の弁理士の名前を入れて検索すればOKです。

ヒット数が多すぎてエラーが出たときには、検索オプションで日付指定を使います。例えば最近5年くらいで絞り込めば良いでしょう。

検索すると、「特開〇〇」とか「特許〇〇」なんてレコードがいくつも表示されます。


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前者は特許の審査が終わっていないものを公開する、公開特許公報です。後者は、審査が終わって特許として登録されたものを公示する特許掲載公報です。
いずれの公報にも「詳細な説明」という欄があります。発明の内容を技術的に説明している欄にあたります。知財初心者でも技術的な心得があれば比較的この欄の良し悪しは判別しやすいかもしれません。

 

 

“偽物” もう許さない 日本ブランド守る最新技術 | NHK | ビジネス特集


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“偽物” もう許さない 日本ブランド守る最新技術 | NHK | ビジネス特集

 

偽造品に苦しんでいる企業の実態と、新たな対策技術に関するお話です。海外における商標登録の必要性も述べられていました。

 

面白かったのは、二酸化ケイ素の粉末によって、真正品を証明することができるという話。粒子には微小な穴が複数形成されていて、その配置のパターンをスマホでチェックすると真正品かどうかの判定(真贋判定)ができるようです。二酸化ケイ素は食品添加物にも使われるので、これを商品である食品や薬に直接加えてもよいそうです。

 

技術力の高い偽造業者も多いので、真贋判定を確実に行うためにはどんどん新しい技術投入していくほかないです。従来だとICタグで真正品を判別することもあるかと思います。記事には、新しいタイプのICタグ技術も紹介されていました。

 

偽造品対策が大変なのは、偽造品が製造されたり販売されたりするのは、海外で行われることが多い、ということもあるかと思います。知財業界で模造品対策をしている人たちは、海外を飛び回っている方が多い印象です。出張や赴任で、中国等の新興国で活動している方が多いですね。マイルをたくさん溜められるとか海外に住めるとか、表面的なところばかり見て、憧れたりもしたのですが、実際には、犯罪行為に対峙する危険な仕事です。模造品を叩くための知財保護体制が十分に確立していない新興国も多くて実際には苦労の多い仕事だろうと思います。

 

なお記事の中で、外国において商標登録することを勧めていたコンサル会社はどうも行政書士さんの経営みたいです。

 

WWIP Consulting Japan | 中国·アジア全域で、化粧品・健康食品・医療製品承認申請 / 知財保護・商標出願・模倣品対策

海外でのビジネス展開する上で必要な様々な手続きについて代行したりコンサルしたりするビジネスモデルなのでしょうか。

 

海外での商標登録自体は弁理士の得意分野なのですが、その他の海外におけるビジネス支援もあわせて行うくらいのアグレッシブさがあっても良いかもしれません。